金を、お雪の一時の興味にはらっているのだった。
 青い迷送香《まんにょうこう》、赤い紫羅欄花《あらせいとう》、アネモネ、薔薇《ばら》、そして枝も撓《たわ》わなミモザ。それはお雪の手にもモルガンの小脇《こわき》にも抱えこぼれ、お供の少年の、背中の籠にも盛りこぼれるほどだった。
「この花を、室中《へやじゅう》へ敷いて、お雪さん休みます。」
と、モルガンはいっているが、黄金《こがね》色の花が、みんな金貨のような錯覚をお雪に与えた。ダイヤモンドばかりでなく、自分の身からも光りが発しるような気がした。四万円で購《か》われた身だということに、今まで妙に拘《こだ》わっていたのさえ変な気がした。
 こんなに親切にしてくれた男はあったか――お雪は、ミモザの花に埋もれたようになって、椰子《やし》の木影のベンチに、クタクタといた。
 情人《おとこ》はあった。楽しかった人と、悲しかった人と――けれど、モルガンのような親切な男は、ない。
 はっきりと、ない、と心にいって見ると、ふと、日光《ひかげ》が翳《かげ》ったように、そうでない、みんな親切なのだったのではないかと、はじめて気がついた。
 楽しかった人――それ
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