を褒《ほ》めている。そうかと思うと、
「なんだ、お前なんかに、こんな好い花が買えるものか。この好い匂いがわからないんだ。けちんぼう女《め》。」
と、いくら進めても買わない客の後姿に罵《ののし》っている。
「あら、鮮魚《おさかな》が――」
お雪は、鮮魚の店へひっかかって、掬《すく》い網を持ってよろこんだ。
大きな盤台《ばんだい》に、ピチピチ跳《はね》る、地中海の小魚が、選《よ》りどりにしゃくえた。ヒラヒラと魚躰《からだ》をひるがえすたびに、さまざまの光りが、青い銀のような水とともにきらめいた。また一人の少年が、お雪のお小姓《こしょう》のように、すぐにそれを受けとっている。
お雪は、ふと、美しい着物は着ていたが、なんにも、購《か》いたいものも購えなかった、芸妓《げいしゃ》時代の窮乏を思いうかべた。それよりももっと、幼年時代、新京極あたりの賑やかな町を通っても、金魚店の前に立っているだけで、自分で思うように、しゃくって買った覚えのない、丸い硝子玉の金魚入れがほしかった事を、思い出すともなく思いだしていた。
モルガンが払う金を見ていると、夜店の駄金魚を買うのとは、お話にならないほど高い
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