で形容してあるが、これは幾分誇張かもしれない。
三
競馬|季節《シーズン》になった紐育《ニューヨーク》社交界では、晩餐《ばんさん》の集まりでも、劇場ででも、持馬をもったものはいうに及ばず、およそ話題は、その日の勝馬のことで持ちきっていた。
丁度、そうした時節に、夫の国に行きあわせたお雪は、ある日、競馬見物に連れていってもらった。
と、モルガンを見つけた若紳士たちは、すぐに彼を取りまいて、肩を叩《たた》いたり笑ったりして、お雪には、慇懃《いんぎん》に握手を求めた。
お雪は、その人たちから、米国の婦人と同様に、丁寧にはされはしたが、好奇心をもった眼が集まってくるのが面伏《おもぶ》せでもあり、言葉がよく分らないから、何をいわれているのかモルガンの顔の色で悟るよりほかなかった。
郊外の、みどりを吹く野の風はお雪を楽しませはしたが、競馬に気の立っている、軽快すぎる男女の饒舌《じょうぜつ》は、お雪をすぐに、気くたびれさせてしまった。
モルガンは友達と打解けて話しあっていたが、
「帰ろうか。」
と、じきに競馬場から出てくれた。
此処へ来ても、お雪は、眼、眼、眼と、痛い
前へ
次へ
全41ページ中32ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング