視線を感じていたので、家庭へかえるとホッとして、
「お友達と、何の話してらしったの。」
と、きいた。モルガンは、あんまり気乗りのしないふうで、
「例の通り、お雪さんの身元しらべ。」
お雪は済まなさそうに、ほほ、ほほと、薄笑いした。
「また、刀鍛冶《かたなかじ》の娘だと、おっしゃったのでしょう。」
お雪はモルガンが、自分の生れを、日本の魂を打つ刀鍛冶の女だと吹聴《ふいちょう》し、刀鍛冶という職業は、武士の階級だといって、日本娘お雪を紹介するのを、気まり悪く思っているのだった。
――いいや、彼奴《あいつ》は、そうかとはいわなかった。それどころか彼奴《あいつ》がいうには、モルガン君、君の夫人は、芸妓ガールだと、最近来た日本人がはなしてたよといった――
そんなふうに、友人から、面皮《めんぴ》を剥《は》がれて来たことを、モルガンは押しかくして、
「彼は、どうして君のおくさんは日本服ばかり着ているのだというから、一番よく似合うからさといったのだが――」
モルガンのそういう調子には、何処か平日《ふだん》とは違うものがあった。
「実際うるさい奴らだ。」
お雪は、モルガンの楽しまない顔色を見
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