してくれた。気に入りましたか?」
 お雪は、それに返事する間もなかった。急いでモルガンの肘《ひじ》を叩《たた》いて、水に飛び込む男女を、指さした。
「人魚《ニンフ》、人魚《ニンフ》。」
 若い女の、水着の派手な色と、手足や顔の白さが、波紋を織る碧い水の綾のなかに、奇《あや》しいまでの美しさを見せた。
「西洋の人って、ほんとに綺麗ね。」
 溜息《ためいき》といっしょに、お雪が呟《つぶや》くようにいうと、
「そのかわりあなたのように、心が優しくない。」
と、モルガンは妻の手をとった。

 帽子をとったお雪の額をグッと髪の上までモルガンは撫《な》で上げたとたんに、彼は叫んだ。
「おお、マリア観音《かんのん》!」
 好奇にみちた彼の眼は素晴らしい発見に爛々《らんらん》と燃えて、
「うつくしい、うつくしい。大変に美しい。」
とお雪の頭を両手でおさえたまま、いつまでもいつまでも見入るのだった。
 白皙《はくせき》の西洋婦人《ひとたち》にもおとらないほど、京都生れのお雪の肌《はだ》は白かった。けれど、お雪の白さは沈んだ、どことなく血の気の薄い、冷たさがあって、陶磁器のなめらかさを思わせる、寒い白さだ
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