、小雨がちな巴里《パリ》にいた自分と、違った自分を見出《みいだ》して、狐《きつね》につままれたような気がした。
「巴里は、京都を思い出させたようだったからね。」
モルガンは、此処へ着くと急に、お雪が、昔のお雪の面影《おもかげ》を見せて、何処《どこ》か、のんびりとした顔つきをしているのが嬉しかった。もともと淋しい顔立ちだったが、日本を離れてから、目立って神経質になり、尖《とが》りが添っていたのが、晴ればれして見えるので、
「以前《もと》のお雪さんになった。」
と悦《よろ》こんだ。
ニコリと笑ったお互《たがい》の白い歯にさえ、碧さが滲《し》みとおるようだった。
「何見てるです。」
と言われると、お雪は指のさきを、モルガンの眼のさきへもっていって、
「手のね、指の爪《つめ》の間から、青い光りが発《で》るようで――」
と眼をすがめて見ているお雪があどけなくさえ見えるのを、モルガンは、アハハと高く笑った。
「あなたは、ニースへ着いたら、拾歳《とお》も二十歳《はたち》も若くなった。もう泣きませんね。」
「あら、あて、泣きなんぞしませんわ。」
「此処の天《そら》の色、此処の水の色、あなたを子供に
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