》の家はつらなり、大理石はいみじき光りに、琅※[#「王+干」、第3水準1−87−83]《ろうかん》のように輝いている。その前通りの岸には、椰子《やし》の樹《き》の並木が茂り、山吹《やまぶき》のような、金雀児《エニシダ》のようなミモザが、黄金色の花を一ぱいにつけている。
 岸の、弓形の、その椰子の並木路を、二頭|立《だて》の馬車や、一頭立の※[#「さんずい+肅」、第4水準2−79−21]洒《しょうしゃ》な軽い馬車が、しっきりなしに通っている。めずらしい自動車も通る。
「ニースって、竜宮《りゅうぐう》のようなところね。」
 お雪は、岸から覗《のぞ》く海の底に、深い深いところでも、藻《も》のゆれているのが、青さを透して碧く見えるのを、ひき入れられるように見ていた。足|許《もと》の砂にも、小砂利《こじゃり》にも、南豆《ナンキン》玉の青いのか、色|硝子《ガラス》の欠けらの緑色のが零《こぼ》れているように、光っているものが交っている。
「あたしは、一度でも、こんな気持ちのところに、いたことがあっただろうか――」
 お雪は思いがけないほど、明澄《めいちょう》な天地に包まれて、昨日《きのう》まで、暗い
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