だのだと――
 ダイヤモンドの指環のお土産《みやげ》があろうとも、お雪は未来をかけて約束した人にそむく気にはなれなかった。
「外国人はいやだす。」
と、すげなく断わっても、
「そりゃお雪、つれなかろうぞ。」
などと怨《うら》みをいうのとは違う。お雪が煩《うる》さくなって、病気|出養生《でようじょう》と、東福寺の寺内《じない》のお寺へ隠れると、手を廻して居どころを突きとめ、友達の小林|米謌《べいか》という人を仲立ちに、両手でも持てないほどの大きな籠《かご》に果物《くだもの》や菓子を一ぱい入れて贈ってくる。花束は毎朝々々来る。
 そんなこんなのうちに、見舞われたものが、見舞わなければならない羽目になったのは、あわれ米国《アメリカ》青年が、恋|病《わず》らいのブラブラ病《やま》いになってしまったのだ。
「僕は、この胡弓を抱いて死にます。」
 古い都の、古い情緒を命とするお雪には、そうしたセンチメンタルが、いっち成功する。
「でも、あたし、お妾《めかけ》はいやです。」
とまで、ギリギリと、決勝点近くまで、モルガンは押詰まっていった。
「お妾さんでない。お雪さん、あたくしの夫人《おくさん》です。
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