モルガンにすれば、おしかさんの京なまりが懐しかったのであろう。京都へいって、そこでも三代鶴《みよつる》やその他の一流の舞妓に目をつけた。
 外国人の客を専門の縄手の小野亭は、お雪の世話をよくしていた。おとなしいお雪が、胡弓を弾くのを、モルガンは凝《じっ》と聴いている時があった。傷ついた心をともにむせび泣いてくれるような、胡弓の絃《いと》の音《ね》がお雪の心情《こころ》のようにさえ思われて来たが、
「この胡弓をもらって行く。」
と言出したのは、二度目に日本へ来た時だった。
「お雪さんも連れて行きたい。」
といったが、その時、お雪には末を約束した学生があったが、そうとは言わず、今度逢うまでに考えておくというように、また来ようとは思いもかけなかったので、軽くいっておいた。それを信じたモルガンは、アドレスを書いた封筒を沢山渡していった。
 次の年、といっても、半年もたたぬうちにモルガンは来て、なんでも根引きするといいだした。それは、こんな噂さえ立ったほどだ。お雪の兄さんが、三条あたりに理髪店を出していて、その人が、外国人でもモルガンほどの人にやるならと、独断で、その封筒を失礼してモルガンを呼ん
前へ 次へ
全41ページ中21ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング