年には互いの心に反《そ》りが出て、そういう日が多かったかも知れない。けれどもわたしは貞奴を貞婦だと思う。
気性もの、意地で突っ張ってゆく、何処までも弱い涙を見せまいとする女――そういう人に貞奴も生れついているようだ。そうした生れだちのものは損なのは知れている。女性は気弱く見える方が強靭《きょうじん》だ。しっかりと自分だけを保護して、そして比較的安全に他人の影にかくれて根強く棲息《せいそく》する。強気のものは我に頼んで、力の折れやすいのを量《はか》らずに一気に事を為《な》し遂げようとする。ことに義侠心と同情心の強いものがより多く一本気で向う見ずである。
わたしは自分の気質からおして、何でもかでもそうだと貞奴をこの鋳型《いがた》に嵌《は》めようとするのではないが、彼女も正直な負けずぎらいであったろうと思っている。そしてそういう気質のものが胸算用をしいしい川上を助けたとはどうしても思われない。彼女は強い、それこそ、身を炎にしてしまいそうな自分自身の信仰を傾け尽して、そこに幾分かの好奇心を交えて、夫川上の事業を助けたのであろう。そこにはまた、彼女の生れた血が、伝統的義侠と物好《ものずき》な
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