その顔によく似合つた色の布を選らむのは当然なことで、すこしでも美しいのをといふ心持ちが、色彩に敏くなり、模やうや、かたちまでが種々に変化し、売手のつくる流行に支配されると、自分の皮膚とは、似てもにつかないものをつけることになつて、化粧を濃くしてごまかし、自分の本来のものを殺してまで衣服の柄の方に顔を合せようとする不自然さになつたりする。

 そんなことを思つてゐるところへお客があつた。きものの話をきいて書くのだといはれる。
 いろんな変転を経て来て、日本の着ものは、この風土と、この家屋とのなかに育つて、平和な時の家庭服としては、ゆくところまでいつた良さがあるといふやうな話をして、
「一人の人が考へたのではなく、長い月日の間に、みんなが、自分たちに具合よくしていつたのだから――」
 と、言ひながら、
「日本の着物を裁つといふのは、反物を四ツ四ツと折つて、それを二ツに断りはなし、あとを竪に二ツにすれば出来る、老若男女、いづれもおなじ、こんなにはつきりしたものはない。」
 と、昔の人の頭のよさを、また思ひ直した。
 反物は、近頃こそ袖が長くなつたので、三丈とか、三丈三寸とか五寸もあるのがある
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