おとづれ
長谷川時雨

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)氣《け》にも

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)そそくさ[#「そそくさ」に傍点]
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 十五夜の宵だつた。新らしい借家に移つてから、ちよつと一度歸つて來て、そそくさ[#「そそくさ」に傍点]と徹夜で書物をして出ていつたままのあるじから、幾日ぶりかで二度目の速達便が來た。丁度其日の新聞に連載ものが休みになつてゐたので、どこぞで病氣でもしてゐるのではないかと案じてゐたところなので、居所不明の手紙でもなんでも、無事だつたといふことが氣持ちを輕くさせてくれた。
 例の通り、おわびやら、でたらめの改心やらを誓つた、歸宅の通知状だらうとは思つたが、このごろはそれさへあてにならない事が多いので、ただ無事だといふ知らせだけに、上書を見ただけですみさうな氣がした。中味はあんまりあてにすると失望させられるのを恐れて、すぐ見る氣にもなれかつた。
 でも矢つぱりわたしは正直ものである。今の世に、正直とは、ばかといふ意味だとばかりに笑はれもするが、笑はれてもわたしは、笑ふものより幸福であるといつも
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