突然なくなつたので、大變嘆いて、ひとりでバンクーバに居られないから、ロスアンゼルスは氣候もいいし、上山浦路さんも獨りで殘つてゐるから、そこへ行くといつてよこしたきりなの。」
 一本の齒が拔けるとほかの齒が寒い。女でおなじやうな仕事をしてきた人たちが、みなからいたはられるころに、異境で涙にひたつてゐるのを思ふと苦しい。私は、私なんぞでも、日本に殘つてゐるものは、身をいたはらなければいけないと思つた。私一人の死でも外國に居るさびしい人たちには、一本の齒がぬけたやうに寒く感じられるだらう。で、私は友達にむかつて元氣に言つた。
「俊子さんは、ハリウツドかなんかで、素張らしい映畫脚本でも發表するかもしれない。あの位な腕前は、さうザラにあるもんぢやないから、屹度立直る。」
 田村俊子作とか監督とかいふ映畫が輸入されてくれば嬉しい。私がよろこべば、私を愛してくれる若い女《ひと》たちがヂヤンヂヤン宣傳してくれるにきまつてゐる。さうなると若い男衆たちも追從する。盛んなるかな!
 私は嬉しくなつて笑つた。友達の手を握つて振る恰好をして、自分《じぶん》だけの手を振つた。
「八千公《やちこう》しつかりね、モス
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