雑録
――前進座に就いて――
山中貞雄
率直に言えば僕は河原崎長十郎氏並びに前進座一党の諸氏が非常に好きだ。
Boys be ambitious ! 前進座は多くを語らない。
そして常に青年らしい野心を深く包んで黙々として芸道に精進している。
それを此の度太秦発声で「清水次郎長」に出演している一党の態度を見て僕は一入感を深くした。
○
前進座は芸道に於て非常に謙譲だ。
此の徳は此の道に携わる者の誰もが持ちたいものだと思う。
特に映画の場合にこの徳を失ったならば(少くとも僕の場合にだけは)ほんとうの映画は撮れないと思う。
前進座は謙譲の徳を持っている。それは表面的のものでなく、芸熱心の故に自然と備わる徳である。
○
前進座は家族的感情に統一されている。
此の一党の人々から受ける感じはこの人は長十郎氏であるとか、此の人は翫右衛門氏であるとか云う個々な感情ではない。
此の一党の人々は「此の人は前進座の人である」と言う感じから切り離して考えることが出来ない。即ち前進座なる一家の兄姉に対する感情であり、弟妹に対する感情である。
僕は一つの仕事に熱情を傾
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