して居る)
 太郎左衛門、
 「伊吉でないか」
 伊吉恨めしそうに太郎左衛門を見る。
 太郎左衛門が、
T「お類が昨夜から帰らぬが……」
T「お前何処かへ連れて行ったな」
 伊吉、
 「そんな馬鹿な事」
 いいやと太郎左衛門、
T「怒りはしないよ」
T「お前の女だ好きな処へ連れて行きなさい」
 違うんです、伊吉が云えば、
 太郎左衛門は、
T「その代り約束だから」
 「えッ」
 と伊吉が驚くも道理。
 太郎左衛門が、
T「お前の妹のおふみさんは私が貰うよ」
 伊吉が、
 「いいえ」
T「お類さんは勝手に逃げたんです。私は知りません」
 太郎左衛門、
 「そんな事わしは知らぬ」
T「おふみさんを返して欲しくばお類を連れて帰って下され」
 伊吉、
T「連れて帰ります」
T「きっと連れて帰ります」
 と言い捨てて走り去る。見送って太郎左衛門が意味ありげに笑います。
                  (F・O)

66=(F・I)街道
 旅の夫婦と云う恰好で、乾浪之助とお類が行きます。浪之助がお類に、
T「馬鹿を見たのは伊吉の奴さ」
 と言えばお類も、
T「きっと追ッ掛けて来るわ」
 浪之助
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