T「不義者ッ」

60=下の室
 お類と伊吉、その声にキョロキョロと辺りを見廻す。
 敬四郎尚も大声で、
T「離縁じゃ、今日限り離縁する」
 下ではウロウロして居ります。その時

61=玄関
 雪崩れ込む捕方の一隊、寺中は大混乱の巷と化します。
 結局、
 結城左久馬と坊主の浪之助とお類、覆面の太郎左衛門、おふみ等は到々逃げてしまう。馬鹿を見たのは敬四郎夫婦です。
 ふん捕まって「違う俺だ俺だ」
 と叫んで居る。
 伊吉は逃げて行く浪之助とお類の姿を見て後を追う。
                  (F・O)

62=(F・I)舟宿於加田の表――
 浪之助に連れられたお類が逃げ込む。追って来た伊吉続いて入ろうとして、お内儀にとめられた。
T「お類さんがッ」
 「来ている筈だ」
 「そんな御方は来て居りません」
 「いま見たんだ」
T「早く帰らぬと御主人様が心配なさる」
 とお内儀を押しのけて入る。

63=内部
 一室の襖がガラリと開くと室の中には浪人浪之助。宿の着物を借りて坐って居る伊吉が、
 「お前さんは?」
 浪之助が、
 「今の寺の和尚様さ」
 伊吉ふと室の隅にぬいである
前へ 次へ
全29ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
山中 貞雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング