を知らん。彼らは貴賤、大小、老幼、賢愚と等しく交わり、その態度は嫺雅《かんが》優美なりというもおろか、愛情はその目より輝き、その唇に震う。彼らの来るや、爽然たる薫風吹き渡り、彼らの去るや、吾人が心裡の暖気なお存す。学を衒《てら》わずして教え、恩を加えずして保護し、説かずして化し、助けずして補い、施さずして救い、薬餌を与えずして癒《いや》し、論破せずして信服せしむ。彼らは小児の如く戯れかつ笑う。彼らの戯は無邪気というも中々に、罪を辱かしむるものなり。彼らの笑は微かなりといえども、萎《な》えたる霊魂を蘇生せしむ。彼らの小児らしきは、罪ある良心をして、純潔を羨望せしむ。彼ら泣かば、その涙は人の重荷を洗い去る。そもそもこれらの武夫の住する地帯は即ち基督の徒と共なり。(三十九年二月台南にて)
[#地から1字上げ]〔一九〇七年八月一五日『随想録』〕
底本:「新渡戸稲造論集」岩波文庫、岩波書店
2007(平成19)年5月16日第1刷発行
底本の親本:「随想録」丁未出版社
1907(明治40)年8月15日
初出:「英文新誌 三巻一七号」英文新誌社
1906(明治39)年3月15
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