武士道の山
新渡戸稲造

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)此処彼処《ここかしこ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)峻険|崎嶇《きく》たる

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ]〔一九〇七年八月一五日『随想録』〕
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 武士道は斜面緩かなる山なり。されど、此処彼処《ここかしこ》に往々急峻なる地隙、または峻坂なきにしも非《あ》らず。
 この山は、これに住む人の種類に従って、ほぼ五帯に区分するを得べし。
 その麓に蝟族する輩は、慄悍なる精神と、不紀律なる体力とを有して、獣力に誇り、軽微なる憤怒にもこれを試みんと欲する粗野漢、匹夫の徒なり。彼らはいわゆる「野猪武者」にして、戦時には軍隊の卒伍を成し、平時には社会の乱子たり。
 更に歩を転ずれば、ここに他種の人の住するを見る。山麓叢林の住民よりも進歩したる一階級の民なり。彼らは獣力に荒《すさ》まず。野猪の族と異りて、放肆《ほうし》なる残虐また悪戯を楽しみとせずといえども、なおその限られたる勢力を行わんことを喜びとなし、傲岸《ごうがん》尊大にして、子分
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