のみである。慢心は亡国の最大原因である。

[#5字下げ]米国詩人の無遠慮な詩[#「米国詩人の無遠慮な詩」は中見出し]

 我輩の友人にアーヴィンという文士として相当に名を轟《とどろ》かした米人がある。この人が昨年の夏頃作った詩がある。これを読んで我輩は大《おおい》に感服した。事は日本に関することであるから、必らずや我国語に翻訳せられ、または有識者の間には原詩が大に広まれるものと思い、これを友人間に質《ただ》したが、更に伝わっていないと聞いて大に残念に思うた。
 詩の題は「隣邦の日本よ、しばし待て」(Wait neighbour Japan)というのである。しかしてその要点は世界の歴史を繙《ひもと》けば、国が亡びんとする前には、国が富みその兵が強くなる。国民が慢心して終《つい》には亡ぶるものである。米国は今まさにその轍《わだち》を踏まんとしている。隣邦の人よ、しばし待て、汝《なんじ》に無礼するものは自《おのずか》ら亡ぶというので、このことを無遠慮に詠じている。我輩はこれを読んで非常に驚いた。彼がその同胞なる米国人を警戒するに親切であることは、彼の従来の著書に現われているが、かくも露骨に
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