ぬ。祖母を愛するのは御無理御尤《ごむりごもっとも》一|天張《てんば》りである。正妻を愛するのは、妻の人格を重んじ、自己の家と子供との利害を合理的に考え合せて愛するので、妻に過《あやまち》があればこれを責めて改悛させるその愛情は一時的の感情に止まらぬのである。世人はよく国際の関係には道徳なく、正義人道が行われないというものもあるが、我輩の見る所では、決してこれらのものが皆無であるということはない。今日はいまだ何事もこれらの標準によりて決せらるるとは言い難いのであるが、しかし早晩国の地位を判断するには正義人道を以てする時が来るのである。近頃は何《いず》れの国でもその心事を隠すことが出来ない、国民の考えていること、政府の為《な》したことは、殆《ほとん》ど総て少時間の後に暴露し、列国環視の目的物となる。そこで世界の各国が一国を判断する時には、その言うこと為すことの是非曲直を以て判断する、あるいはその代表者が如何なる言を発したか、如何なる行動を執《と》ったかによりて判断する、またある国が卑劣であり、姑息《こそく》であり、陰険であり、または馬鹿げたことをすれば、それは直《ただち》に世界に知れ渡るのである。従《したがっ》てある国が世界のため、人道のために如何なる貢献をなしたかは、その国を重くしその威厳を増す理由となる。国がその位地を高めるものは人類一般即ち世界文明のために何を貢献するかという所に帰着する傾向が著しくなりつつある。
[#地から1字上げ]〔一九二五年一月一五日『実業之日本』二八巻二号〕
底本:「新渡戸稲造論集」岩波文庫、岩波書店
2007(平成19)年5月16日第1刷発行
底本の親本:「実業之日本 二八巻二号」実業之日本社
1925(大正14)年1月15日
初出:「実業之日本 二八巻二号」実業之日本社
1925(大正14)年1月15日
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:田中哲郎
校正:ゆうき
2010年3月12日作成
2010年6月14日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全3ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
新渡戸 稲造 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング