存する力を発達せしむるのが目的であるのに、それに程度を定めて、これ以上発達せしむべからずと断定したり、あるいはその程度で以って押えるのは甚だ忍びないことである。けれども職業の教育になると、これを定めねばならぬ。手近い話が大工が釿《ておの》などを使うときにでも、出来るだけウンと気張ってやれといわれて、ウーンとありとあらゆる力を出してやった時には、どんなことが出来るか。材木を損するばかりではなく、自分の手足を負傷するかも知れぬ。物事には程よい加減があるから、職業を見当にする教育の方針も、これを充分に何処までもズット伸ばすことは難かしいと思う。ある漢学者から聴いたのに、教育[#「教育」に丸傍点]の字はよほど面白い字だ、育[#「育」に丸傍点]の字を解剖して見ると上の云[#「云」に白丸傍点]は子[#「子」に白丸傍点]という字を逆にしたのだそうで、下の月[#「月」に白丸傍点]という字は肉[#「肉」に白丸傍点]という意味だそうである。これは小供が彼方《あっち》向いているのを、美味しい物即ち肉を喰わせてやるから、此方《こっち》へ向けといって引張込《ひっぱりこ》む意で、これがいわゆる育[#「育」に丸傍点
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