受くるものだとなつて、車夫の位地もズツト高まるし、又た子供も悦んで車夫に成るであらう。皆それ/″\高尚な資格を備へた人が車夫になる。今日では竊盜でもあるとか、或は喧嘩でもしたと云ふと、其の犯人としては車夫仲間へ一番に目を付けると云ふ話だが、そんな事も無くなつてしまひ、一朝天下の大事でも起れば、新聞屋が車夫の所へ御高説を承はりたいと云つて往くやうにならう。マア世の中はそんなものである。要するに一方に於て職業を輕蔑する觀念が大いに除かれ無ければ、どれほど職業教育に力めた所で効能が薄からう。
以上教育を施す第一[#「第一」に白丸傍点]の目的が職業であることを述べて來たが、然るに第二[#「第二」に白丸傍点]には又たそれと反對の目的がある。それは即ち道樂である。道樂の爲に教育をする、道樂の爲に學問をすることがある。之は一寸聞くと耳觸りだ。けれども能く之を味つて見ると、又た頗る面白い、高尚な趣味があらうと思ふ。人が學問をするのも斯う行きたいものだ。來月は月給が昇るだらうと、職業的勘定づくめの學問をすると、丸で頭を押へられるやうなものだ。けれども道樂に學問をすると、さう云ふことが無い。譬へば育[#
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