は其點に在るので、日本人は惡く云へばオダテ[#「オダテ」に傍点]の利く人間である、良く云へば非常に名譽心の強い人間である。譬へば日本の子供に對しては、此コツプを見せて、『お前が此のコツプを弄んではならぬ、若し過つて壞したら、人に笑はれるぞ』と云ふのであるが、西洋の子供に對してはさうでない。七八歳或は十歳くらゐの子供に對して、『此コツプは一個二十錢だ、若しもお前が此のコツプを弄んで壞したら、二十錢を償はねばならぬ、損だぞ』と云ふと、その子供はさうかなと思つて手を觸れない。日本の子供には損得の問題を云つても、中々頭に這入るもので無い。殊にお武士さんの血統を引いて居る人達はさうだ。『損だぞ。』『そん[#「そん」に傍点]ならやつてしまへ』と云つて、ポーンと毀してしまう。それで日本人の子供に向つて、『此コツプは他人から委ねられた品物だ、一旦他人から保管を頼まれたコツプを壞すと云ふのは、實に耻かしい次第だ、大切にして置け』と斯う云ふのも宜いが、それよりは『お前がそんな事をすると、あのをぢさんに笑はれるぞ』と云ふと直ぐに廢めてしまふ。人に笑はれるほど恐ろしいものは無いと云ふのが、今日の所では日本人の
前へ
次へ
全43ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
新渡戸 稲造 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング