二三日の間は、気が変になるまで泣き悲しんだ。あとでそのことを知つた兄から、馬鹿な真似《まね》をするものでないと叱《しか》り飛ばされて、余計なことをしなければよかつたと私も悔いたが、只《ただ》併し、自分の書いたものが人に感動を与へ得るといふことに就いては、その時始めて自信を持てたのだつた。其の後、私は野村から鼓舞され、里見さんに励まされたりして、三つ四つの習作をした。一つ一つ小説を書いてみる度に、私も幾らかづつは自分のやつて行かうとする仕事の目先が、明るくなつて行つた。去年の春、小さな単行本を出版した時にも、秋から、佐治や福田たちの仲間に加つて第五次の「新思潮」を始めてからも、私の書いたものが活字になる度に、喜んで読んでくれる極くわづかばかりの読者の中で、姉はもつとも熱心な読者の一人であつた。――これから、私は、沢山によい作品を書いて行かうと思つてゐる。好い作品の出来た時に、私のために喜んでくれる人々の中に、どうして姉を数へずに置けよう。私の愛する周囲の人々の中には、悲しいことに、お金まうけでもしない限りは、喜ばしてあげることの出来ない人もゐるけれども、姉は、姉なら、私が好い作品を書いた
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