た、」
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「おお、母《かあ》さんや、」とお父《とう》さんが言《い》った。「あすこに、綺麗《きれい》な鳥《とり》が、好《い》い声《こえ》で鳴《な》いているよ。日《ひ》がぽかぽかと射《さ》して、何《なに》もかも、肉桂《にくけい》のような甘《あま》い香気《かおり》がする。」
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「妹《いもうと》のマリちゃんが、」
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と歌《うた》うと、マリちゃんは急《きゅう》に顔《かお》をあげて、泣《な》くのをやめました。お父《とう》さんは
「おれはそばへ行って、あの鳥《とり》を、ようく見《み》て来《く》る。」というと、
「あれ、およしなさいよ!」とおかみさんが言《い》った。「わたしはまるで家《うち》じゅうに火《ひ》がついて、ぐらぐらゆすぶれてるような気《き》がするわ。」
 けれどもお父《とう》さんは出《で》て行《い》って、鳥《とり》を眺《なが》めました。
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「わたしの骨《ほね》をのこらず拾《ひろ》って、
 手巾《はんけち》に包《つつ》んで、
 杜松《ねず》の樹《き》の根元《ねもと》へ置《お》いた。
 キーウィット、キーウィット、何《なん》と、綺麗《きれい》な鳥《とり》でしょう!」
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こう歌《うた》うと、鳥《とり》は黄金《きん》の鎖《くさり》を、お父《とう》さんの頸《くび》のうえへ落《おと》しました。その鎖《くさり》はすっぽりと頸《くび》へかかって、お父《とう》さんによく似合《にあ》いました。お父《とう》さんは家《うち》へ入《はい》って、
「ねえ! とても美《うつく》しい鳥《とり》だよ。そしてこんな奇麗《きれい》な、黄金《きん》の鎖《くさり》を、わたしにくれたよ。どうだい、立派《りっぱ》じゃないか。」
といいましたが、おかみさんはもう胸《むね》が苦《くる》しくって堪《たま》らないので、部屋《へや》の中《なか》へぶっ倒《たお》れた拍子《ひょうし》に、帽子《ぼうし》が脱《ぬ》げてしまいました。すると鳥《とり》がまた歌《うた》い出《だ》しました。
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「母《かあ》さんが、わたしを殺《ころ》した、」
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「おお、」と母親《ははおや》は呻《うめ》いた。「わたしは千|丈《じょう》もある地《じ》の底《そこ》へでも入《はい》っていたい。あれを聞《き》か
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