も連れて一緒に行った。茶屋へ行くと、もう浚えは済んでおり、父も居ないので、失望しての帰り途、父は自分の馴染の祇園の茶屋鶴屋というのに居るであろうと思って、そこへ寄った。この鶴屋は松山藩の馴染の茶屋になっていて、藩の者はよくここに会し、ただ大宴会となると一力でやることになっていた。父はこの鶴屋にも居なかった。私はいよいよ失望して、悄然と帰った。私がどうしてこの時鶴屋へ父を尋ねて行ったというに、かつてここへ伴われて大変に面白い目を見たことがあるので、またあのような事があると今日の失望が償われると思ったからであった。
 その面白い目を見たというのは、出入商人が父を促がして清水の花見に行った時のことで、私も附いて行った。ある茶店で弁当を開いたが、商人らはそれだけで満足せず、父をせり立てるので、父はやむをえず右の鶴屋へ一行を案内した。座敷へ這入ると、赤前垂の仲居が父に『小縫さんを呼びましょうか』と囁いた。『それに及ばぬ』と父は答えて、外の芸子を呼び舞子も呼んだ。私はこの時『小縫』という名を始めて聞いたが、これは父の馴染の芸子であった。留守居役は各藩共馴染の芸子を有《も》たねばならぬのであるが、今
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