は腹を一文字に切ってから、尖切を咽へ刺して前へ刎《は》ね切ろうとしたが、切れなかった。そこで自ら手を以て刃を撫でると、刃が反対になっていたので再び抜き取り刃を前にして更に突立て、咽笛を刎ね切って倒れたという事であった。この際これほどの落つきがあるのは容易な事でない。しかるに余の三人は人にたかって置きながら、中には割腹の場合に臨んで臆《おく》れを取り、人の介錯を煩わした者もあったそうである。その中の一人を介錯したのは、当日幸いに傷を免かれた宇佐美という者で、即ち前に述べた私の祖母の里方の甥である。
そこでこの事が藩地へ聞えた時、私の家でも随分と心配した。そして関係者は割腹した者の外も厳罰を受ける法になっていたので、従って宇佐美も隠居を命ぜられ家禄も百二十石を二十石減少せられ、当時男子がなかったので他より養子をさせられて、辛《やっ》と百石で家名だけは取止めたのであった。私はこの宇佐美が帰った時その家へ行って見たが、譴責中は月代《さかやき》や髭を剃ることも出来ぬから、長く伸びた月代で髭も蓬々としていたから、何だか怖く、また衰えた風体をしていたので、気の毒に思った。一時は宇佐美も他の死んだ人
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