、いよいよ面白く思って、他の書物をもいろいろ読んだが、最もこの綱目を愛読した。温公の通鑑では三国の時魏を正統としてあるを、朱子の綱目では蜀を正統として書き改めている。そこが最も気に入った点で、従って通鑑の方に厭気がさし、数年後まで披けて見ることもせなかった。
 それから、日本の歴史では『大日本史』は従来の歴史に北朝を正統としたのを、南朝が正統として書かれている。これがあたかも綱目の意義と同じであるから、これも好んで読んだ。その後に出た岩垣松苗の『国史略』は随分初心者に読まれた物であるが、私は北朝を正統としてあったから、その書に限り読む事を好まなかった。それよりは同じ位のもので、青山|延于《のぶゆき》の『皇朝史略』の方を好んだ。そこで日本の南北朝時代を、通鑑綱目のような体裁で書いた物があれば好いと思い、その結果遂に自分で書いて見ようと思い立った。尤も明教館の書物といってもさほど材料もないが、とかくそれが書いて見たいので及ぶだけ他書をも渉猟して、後醍醐天皇御即位の年より、後亀山後小松両天皇の和睦せられて、南北朝の合一するまでを書き終えた。しかしそれは誠に疎笨《そほん》[#「疎笨」はママ]極
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