昼頃から曇って来た静かな空気の中にゴロッチョゴロッチョと濁った声を伝えている。
弘福寺と牛島神社と、も一つ何処かのと三カ所で、相前後して入相の大太鼓を打ち初めた。
姉は俄かにあたふたと働き出して座敷を掃いたり庭に水を打ったりしている。
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汽車音の若葉に籠る夕べかな
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夕餉の後妹に少女雑誌を読みきかせていると如石が来た。私の留守に届いた聲風、良太兩兄の手紙を持って来たのである。
妹は今宵七松園の縁日へ行く約束があるので、躑躅を買うべき銭を姉から貰い受けて如石と共に出かけた。そこへ仁王丸が来た。
間もなく如石と妹とが戻って来て皆で仁王丸の蜜豆をご馳走になった。
買って来た躑躅は如石が植えると云う、けれども土を堀る道具が何もないので妹の学校の手工用の箆で掘ることにした。仁王丸が電気を持ちかざす役目で――。二本の躑躅がそれそれ配置よく植えられると庭の面は急に化粧した小娘のように見られた。
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躑躅植ゑて夜冷えする庭を忘れけり
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やがて仁王丸と如石と打連れて帰って行った。
五月八日
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