ちと変りがない。故芥川龍之介の自殺については、色々な動機が臆測《おくそく》されているけれども、或る確かな一説によれば、あの美的観念の極度に強い小説家は、常に自分の容貌《ようぼう》のことばかり気にして、老醜を曝すのを厭がっていたということだから、あるいはおそらくそうしたことが、有力な動機になっていたかも知れないのである。芸術家の心理を理解しない、世間の一般人の眼から見たら、文学者がこんな動機で自殺するなんていうことは、滑稽《こっけい》に類する馬鹿気たことに思われるかも知れないが、僕らの同じ仲間には、そうした気持ちの痛々しさが、同情によって充分によく解るのである。ギリシアの神話にある美少年ナルチスは、自分の青春の姿を鏡に映して、惚々《ほれぼれ》と眺め暮していたということであるが、芸術家という人種は、原則として皆一種の精神的ナルチスムスである。彼らは決して、世の常の洒落者《しゃれもの》やおめかしやでなく、むしろ概してその反対であるけれども、その心の中の鏡に映して、常にイメージしている自分の姿は、永遠の美少年でありたいのである。(だから彼らは、故意にかえって現実の鏡を見ないようにし、常に無精髭
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