夢
萩原朔太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)自然的《ノーマル》な
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)おびえ[#「おびえ」に傍点]
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夢と人生 夢が虚妄に思はれるのは、個々の事件が斷片であり、記憶の連續がないからである。昨日私は、夢の中で借金し、夢の中で怪我をした。しかし朝になつて見れば、借金を返す義務もなく、負傷の跡方さへもないのである。そして今夜の夢は、それと全く別なことを經驗する。だがもしさうでなく、夢が夜毎に連續したらどうであらうか。昨日の夢で怪我をした私は、今夜の夢で病院へ入院し、醫師の治療を受けねばならぬ。そして昨日の夢で借りた金を、今夜の夢で催促され、工面しなければならないのである。
この場合にあつて、夢はまさしく現實である。即ち人々は、晝間の生活と、睡眠中の生活と、二部の併存した人生を生きねばならぬ。神がもし慈悲深く、衆生の人間に對して平等だつたら、おそらくこの二つの生活は、互に反對のものになるであらう。即ち晝間の生活で幸福であり、樂しく滿悦してゐるところの人々は、夢の中で苦惱多く、不幸な人生を經驗し
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