も氣高く
優しく 麗はしく 香《かぐ》はしく
すべてを越えて君のみが匂ひたまふぞ。
我れは醜き獸《けもの》にして
いかでみ情の數にも足らむ。
もとより我れは奴隷なり 家畜なり
君がみ足の下に腹這ひ 犬の如くに仕へまつらむ。
願くは我れを蹈みつけ
侮辱し
唾《つば》を吐きかけ
また床の上に蹴り
きびしく苛責し
ああ 遂に――
わが息の根の止まる時までも。
我れはもとより家畜なり 奴隷なり
悲しき忍從に耐へむより
はや君の鞭の手をあげ殺せかし。
打ち殺せかし! 打ち殺せかし!
歸郷
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昭和四年の冬、妻と離別し二兒を抱へて故郷に歸る
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わが故郷に歸れる日
汽車は烈風の中を突き行けり。
ひとり車窓に目醒むれば
汽笛は闇に吠え叫び
火焔《ほのほ》は平野を明るくせり。
まだ上州の山は見えずや。
夜汽車の仄暗き車燈の影に
母なき子供等は眠り泣き
ひそかに皆わが憂愁を探《さぐ》れるなり。
鳴呼また都を逃れ來て
何所《いづこ》の家郷に行かむとするぞ。
過去は寂寥の谷に連なり
未來は絶望の岸に向へり。
砂礫《されき》のごとき人生かな!
われ既に勇氣お
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