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――郷土望景詩――
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 昨日にまさる戀しさの

昨日にまさる戀しさの
湧きくる如く高まるを
忍びてこらへ何時までか
惱みに生くるものならむ。
もとより君はかぐはしく
阿艶《あで》に匂へる花なれば
わが世に一つ殘されし
生死の果の情熱の
戀さへそれと知らざらむ。
空しく君を望み見て
百たび胸を焦すより
死なば死ねかし感情の
かくも苦しき日の暮れを
鐵路の道に迷ひ來て
破れむまでに嘆くかな
破れむまでに嘆くかな。
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――朗吟調小曲――
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 詩篇小解

 漂泊者の歌(序詩)  斷崖に沿うて、陸橋の下を歩み行く人。そは我が永遠の姿。寂しき漂泊者の影なり。卷頭に掲げて序詩となす。

 歸郷  昭和四年。妻は二兒を殘して家を去り、杳として行方を知らず。我れ獨り後に殘り、蹌踉として父の居る上州の故郷に歸る。上野發七時十分、小山行高崎※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]り。夜汽車の暗爾たる車燈の影に、長女は疲れて眠り、次女は醒めて夢に歔欷す。聲最も悲しく、わが心すべて斷腸せり。
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