猫町
散文詩風な小説
萩原朔太郎
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)蠅《はえ》を
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)あの満目|荒寥《こうりょう》たる
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》いている
−−
蠅《はえ》を叩《たた》きつぶしたところで、
蠅の「物そのもの」は死には
しない。単に蠅の現象をつぶ
したばかりだ。――
ショウペンハウエル。
1
旅への誘《いざな》いが、次第に私の空想《ロマン》から消えて行った。昔はただそれの表象、汽車や、汽船や、見知らぬ他国の町々やを、イメージするだけでも心が躍《おど》った。しかるに過去の経験は、旅が単なる「同一空間における同一事物の移動」にすぎないことを教えてくれた。何処《どこ》へ行って見ても、同じような人間ばかり住んでおり、同じような村や町やで、同じような単調な生活を繰り返している。田舎《いなか》のどこの小さな町でも、商
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