の類を多く用いたということだけを附記しておこう。そうした麻酔によるエクスタシイの夢の中で、私の旅行した国々のことについては、此所《ここ》に詳しく述べる余裕がない。だがたいていの場合、私は蛙《かえる》どもの群がってる沼沢地方や、極地に近く、ペンギン鳥のいる沿海地方などを彷徊《ほうかい》した。それらの夢の景色の中では、すべての色彩が鮮《あざ》やかな原色をして、海も、空も、硝子《ガラス》のように透明な真青《まっさお》だった。醒《さ》めての後にも、私はそのヴィジョンを記憶しており、しばしば現実の世界の中で、異様の錯覚を起したりした。
薬物によるこうした旅行は、だが私の健康をひどく害した。私は日々に憔悴《しょうすい》し、血色が悪くなり、皮膚が老衰に澱《よど》んでしまった。私は自分の養生《ようじょう》に注意し始めた。そして運動のための散歩の途中で、或《あ》る日偶然、私の風変りな旅行癖を満足させ得る、一つの新しい方法を発見した。私は医師の指定してくれた注意によって、毎日家から四、五十町(三十分から一時間位)の附近を散歩していた。その日もやはり何時《いつ》も通りに、ふだんの散歩区域を歩いていた。私の
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