は、さうした冬の季節の中で、ふしぎに物侘しく、孤独にふるへる生の果敢なさを感じさせ、何かしら或る暖かい、焚火の燃える家郷への、魂のノスタルヂアを追懐させる。思ふに蕪村といふ詩人は、かうした魂のノスタルヂアで、特別な思慕と情熱を有して居た。彼は真に天質的な詩人であり、且つ最も善きリリツクを持つてゐた詩人であつた。
(余事の議論に亘るけれども、俳句はもちろん抒情詩の一種であるから、本質に特殊なリリツクを持たないものは似而非物である。芭蕉も、蕪村も、この点では特別に皆すぐれた情熱を有した詩人であつた。俳句に於けるリリツクの本質は、その方面で「俳味」と言はれる情緒であるから、真の本質的な俳句であるほど、俳味が強く匂ひ出してるわけである。俳味を無視した単なる写生や客観描写を、俳句の本質と思つてる人々ほど、詩を知らない似而非俳人はないであらう。)
底本:「日本の名随筆20 冬」作品社
1984(昭和59)年6月25日第1刷発行
底本の親本:「萩原朔太郎全集 第九巻」筑摩書房
1976(昭和51)年5月発行
入力:向山きよみ
校正:noriko saito
2009年5月5日作成
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