がつて、瞑想者《めいそうしや》のやうな影法師をうつしてゐた。風景はひつそりとして、空には動かない雲が浮いてゐた。
無限に長く、空想にみちた坂道を登つて行つた。遂に登りつめた時に、眼界に一度に明るく、海のやうにひらけて見えた。いちめんの大平野で、芒《すすき》や尾花《おばな》の秋草が、白く草むらの中に光つてゐた。そして平野の所所に、風雅な木造の西洋館が、何かの番小屋のやうに建つてゐた。
それは全く思ひがけない、異常な鮮新な風景だつた。私のどんな想像も、かつてこの坂の向うに、こんな海のやうな平野があるとは思はなかつた。一寸《ちょっと》の間、私はこの眺めの実在を疑つた。ふいに思ひがけなく、海上に浮んだ蜃気楼《しんきろう》のやうな気がしたからだ。
『おーい!』
理由もなく、私は大声をあげて呼んでみた。広茫とした平野の中で、反響がどこまで行くかを試《ため》さうとして。すると不意に、前の草むらが風に動いた。何物かの白い姿がそこにかくれてゐたのである。
すぐに私は、草の中で動くパラソルを見た。二人の若い娘が、秋の侘しい日ざしをあびて、石の上にむつまじく坐つてゐたのだ。
『娘たちは詩を思つて
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