まつげ》をしばだたいた。是非また来てくれと懇望した。私にしばしば逢つて、いろいろ話が聞きたいからとも言つた。
 私はすつかり得意になつた。そして我ながら自分の思ひ付に感心した。こんなすばらしいことを、何故《なぜ》にもつと早く考へつかなかつたらうと不思議に思つた。これさへやれば、どんな女でも造作なく、自分の自由に手なづけることができるのである。かつて何人も知らなかつた、これ程《ほど》の大発明を、自分が独創で考へたといふことほど、得意を感じさせることはなかつた。そこで私は、茫然《ぼうぜん》としてゐる友人等の方をふり返つて、さも誇らしく、大得意になつて言つた。
 「女の子を手なづけるにはね、君。この手に限るんだよ。この手にね。」
 そこで夢から醒めた。そして自分のやつたことの馬鹿馬鹿しさを、あまりの可笑《おか》しさに吹き出してしまつた。だが「この手に限るよ。」と言つた自分の言葉が、いつ迄も耳に残つて忘られなかつた。
 「この手に限るよ。」
 その夢の中の私の言葉が、今でも時時聞える時、私は可笑しさに転《ころ》がりながら、自分の中の何所かに住んでる、或る「馬鹿者《フール》」の正体を考へるのであ
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