死骸
ula と呼べる女に
海綿のやうな景色のなかで
しつとりと水氣にふくらんでゐる。
どこにも人畜のすがたは見えず
へんにかなしげなる水車が泣いてゐるやうす。
さうして朦朧とした柳のかげから
やさしい待びとのすがたが見えるよ。
うすい肩かけにからだをつつみ
びれいな瓦斯體の衣裳をひきずり
しづかに心靈のやうにさまよつてゐる。
ああ浦 さびしい女!
「あなた いつも遲いのねえ。」
ぼくらは過去もない 未來もない
さうして現實のものから消えてしまつた…………
浦!
このへんてこに見える景色のなかへ
泥猫の死骸を埋めておやりよ。
沼澤地方
ula と呼べる女に
蛙どものむらがつてゐる
さびしい沼澤地方をめぐりあるいた。
日は空に寒く
どこでもぬかるみがじめじめした道につづいた。
わたしは獸《けだもの》のやうに靴をひきずり
あるいは悲しげなる部落をたづねて
だらしもなく 懶惰《らんだ》のおそろしい夢におぼれた。
ああ 浦!
もうぼくたちの別れをつげよう
あひびきの日の木小屋のほとりで
おまへは恐れにちぢまり 猫の子のやうにふるへてゐた。
あの灰色の空の下で
いつでも
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