の椅子にさびしくとまつて
その嘴《くちばし》は心臟《こころ》をついばみ 瞳孔《ひとみ》はしづかな涙にあふれる。
夜鳥よ
このせつない戀情はどこからくるか
あなたの憂鬱なる衣裳をぬいで はや夜露の風に飛びされ。
緑色の笛
この黄昏の野原のなかを
耳のながい象たちがぞろりぞろりと歩いてゐる。
黄色い夕月が風にゆらいで
あちこちに帽子のやうな草つぱがひらひらする。
さびしいですか お孃さん!
ここに小さな笛があつて その音色は澄んだ緑です。
やさしく歌口《うたぐち》をお吹きなさい
とうめいなる空にふるへて
あなたの蜃氣樓をよびよせなさい。
思慕のはるかな海の方から
ひとつの幻像《いめぢ》がしだいにちかづいてくるやうだ。
それは首のない猫のやうで 墓場の草影にふらふらする。
いつそこんな悲しい景色の中で 私は死んでしまひたいのよう! お孃さん!
寄生蟹のうた
潮みづのつめたくながれて
貝の齒はいたみに齲ばみ 酢のやうに溶けてしまつた
ああ ここにはもはや友だちもない 戀もない。
渚にぬれて亡靈のやうな草を見てゐる
その草の根はけむりのなかに白くかすんで
春夜のなまぬるい戀びとの
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