としなだれて居るのですよ。
[#改ページ]
[#「市街之圖」の挿し絵]
市街之圖
散歩者のうろうろと歩いてゐる
十八世紀頃の物わびしい裏町の通があるではないか
青や 赤や 黄色の旗がびらびらして
むかしの出窓にブリキの帽子が竝んでゐる。
どうしてこんな 情感の深い市街があるのだらう。
[#天から9字下げ]――荒寥地方――
[#改ページ]
くづれる肉體
蝙蝠のむらがつてゐる野原の中で
わたしはくづれてゆく肉體の柱《はしら》をながめた。
それは宵闇にさびしくふるへて
影にそよぐ死《しに》びと草《ぐさ》のやうになまぐさく
ぞろぞろと蛆蟲の這ふ腐肉のやうに醜くかつた。
ああこの影を曳く景色のなかで
わたしの靈魂はむずがゆい恐怖をつかむ
それは港からきた船のやうに 遠く亡靈のゐる島島を渡つてきた。
それは風でもない 雨でもない
そのすべては愛欲のなやみにまつはる暗い恐れだ。
さうして蛇つかひの吹く鈍い音色に
わたしのくづれてゆく影がさびしく泣いた。
鴉毛の婦人
やさしい鴉毛の婦人よ
わたしの家根裏の部屋にしのんできて
麝香のなまめかしい匂ひをみたす
貴女はふしぎな夜鳥
木製
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