わらび 松の木の枝
なめくぢ へび とかげ の不氣味な生活。
ああ わたしの夢によくみる このひと棲まぬ空家の庭の祕密と
いつもその謎のとけやらぬ おもむき深き幽邃のなつかしさよ。
黒い風琴
おるがんをお彈きなさい 女のひとよ
あなたは黒い着物をきて
おるがんの前に坐りなさい
あなたの指はおるがんを這ふのです
かるく やさしく しめやかに 雪のふつてゐる音のやうに…………。
おるがんをお彈きなさい 女のひとよ
だれがそこで唱つてゐるの
だれがそこでしんみりと聽いてゐるの。
ああこの眞黒な憂鬱の闇のなかで
べつたりと壁に吸ひついて
おそろしい巨大の風琴を彈くのはだれですか。
宗教のはげしい感情 そのふるへ
けいれんするぱいぷおるがん れくれえむ!
お祈りなさい 病氣のひとよ
おそろしいことはない おそろしい時間《とき》はないのです
お彈きなさい おるがんを
やさしく とうえんに しめやかに
大雪のふりつむときの松葉のやうに
あかるい光彩をなげかけてお彈きなさい
お彈きなさい おるがんを
おるがんをお彈きなさい 女のひとよ。
ああ まつくろのながい着物をきて
しぜんに感情のしづ
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