「海港之圖」の挿し絵]
海港之圖
港へ來た。マストのある風景と、浪を蹴つて走る蒸汽船と。
どこへもう! 外の行くところもありはしない。
はやく石垣のある波止場を曲り
遠く沖にある帆船へ歸つて行かう。
さうして忘却の錨をとき、記憶のだんだんと消えさる港を訪ねて行かう。
[#天から6字下げ]――まどろすの歌――
[#改ページ]
風船乘りの夢
夏草のしげる叢《くさむら》から
ふはりふはりと天上さして昇りゆく風船よ
籠には舊暦の暦をのせ
はるか地球の子午線を越えて吹かれ行かうよ。
ばうばうとした虚無の中を
雲はさびしげにながれて行き
草地も見えず 記憶の時計もぜんまい[#「ぜんまい」に傍点]がとまつてしまつた。
どこをめあてに翔けるのだらう!
さうして酒瓶の底は空しくなり
醉ひどれの見る美麗な幻覺《まぼろし》も消えてしまつた。
しだいに下界の陸地をはなれ
愁ひや雲やに吹きながされて
知覺もおよばぬ眞空圈内へまぎれ行かうよ。
この瓦斯體もてふくらんだ氣球のやうに
ふしぎにさびしい宇宙のはてを
友だちもなく ふはりふはりと昇つて行かうよ。
古風な博覽會
かなしく ぼ
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