て跳躍しよう。


 家畜

花やかな月が空にのぼつた
げに大地のあかるいことは。
小さな白い羊たちよ
家の屋根の下にお這入り
しづかに涙ぐましく 動物の足調子をふんで。
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[#「停車場之圖」の挿し絵]
 停車場之圖

 無限に遠くまで續いてゐる、この長い長い柵の寂しさ。人氣のない構内では、貨車が靜かに眠つて居るし、屋根を越えて空の向うに、遠いパノラマの郷愁がひろがつて居る。これこそ詩人の出發する、最初の悲しい停車場である。
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 農夫

海牛のやうな農夫よ
田舍の屋根には草が生え、夕餉《ゆふげ》の煙ほの白く空にただよふ。
耕作を忘れたか肥つた農夫よ
田舍に飢饉は迫り 冬の農家の壁は凍つてしまつた。
さうして洋燈《らんぷ》のうす暗い廚子《づし》のかげで
先祖の死靈がさむしげにふるへてゐる。
このあはれな野獸のやうに
ふしぎな宿命の恐怖に憑《つ》かれたものども
その胃袋は野菜でみたされ くもつた神經に暈《かさ》がかかる。
冬の寒ざらしの貧しい田舍で
愚鈍な 海牛のやうな農夫よ。


 波止場の煙

野鼠は畠にかくれ
矢車草は散り散りになつてしまつた。
歌も
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