定本青猫
萩原朔太郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)哀愁《ペーソス》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大|海龜《うみがめ》は
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(例)※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]繪
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宇宙は意志の現れであり、意志の本質は惱みである
シヨウペンハウエル
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自序
「青猫」の初版が出たのは、一九二三年の春であり、今から約十年ほど昔になる。その後ずつと絶版になつて、市上に長く本を絶えて居た。元來、詩集といふものは、初版限りで絶本にするところに價値があるので、版を重ねて増册しては、詩集の人に貴重される稀本の價値が無くなつて來る。しかも今日、あへてこの再版を定本にして出す所以は、著者の私にとつて種種の理由があるのである。
第一の理由は、初版「青猫」の内容と編輯とが、私にとつて甚だ不滿足であり、意にみたないところが多かつた爲である。この詩集の校正が終り、本が市上に出始めた頃、私はさらにまた多くの詩を作つて居た。それらの詩篇は、すべて「青猫」に現れた同じ詩境の續篇であり、詩のテーマに於てもスタイルに於ても、當然「青猫」の中に編入すべき種類のものであつた。否むしろそれが無ければ、詩集としてのしめ括りがなく、大尾の完成が缺けるやうなものであつた。しかも詩集は既に製本されて出てしまつたので、止むを得ず私は、さらに此等の詩を集めて一册にし、青猫續篇詩集(第二青猫)として刊行しようと考へた。然るにその出版の好機がなく、且つ詩の數が少し豫定に足りないので、そのまま等閑に附してしまつた。但し此等の詩篇は、當時雜誌「日本詩人」その他に發表し、後に第一書房版の綜合詩集にも編入したので、私の讀者にとつては既に公表されてる者なのである。しかも「青猫」を完全な定本詩集とする爲には、是非とも此等の詩を補遺しなければならないので、初版出版後今日まで、長く私はその再版の機會を待つて居た。
同時にまた私は、その再版の機會をまつて、初版本の編輯上に於ける不統一を正
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