死骸
   ula と呼べる女に

海綿のやうな景色のなかで
しつとりと水氣にふくらんでゐる。
どこにも人畜のすがたは見えず
へんにかなしげなる水車が泣いてゐるやうす。
さうして朦朧とした柳のかげから
やさしい待びとのすがたが見えるよ。
うすい肩かけにからだをつつみ
びれいな瓦斯體の衣裳をひきずり
しづかに心靈のやうにさまよつてゐる。
ああ浦 さびしい女!
「あなた いつも遲いのねえ。」
ぼくらは過去もない 未來もない
さうして現實のものから消えてしまつた…………
浦!
このへんてこに見える景色のなかへ
泥猫の死骸を埋めておやりよ。


 沼澤地方
   ula と呼べる女に

蛙どものむらがつてゐる
さびしい沼澤地方をめぐりあるいた。
日は空に寒く
どこでもぬかるみがじめじめした道につづいた。
わたしは獸《けだもの》のやうに靴をひきずり
あるいは悲しげなる部落をたづねて
だらしもなく 懶惰《らんだ》のおそろしい夢におぼれた。

ああ 浦!
もうぼくたちの別れをつげよう
あひびきの日の木小屋のほとりで
おまへは恐れにちぢまり 猫の子のやうにふるへてゐた。

あの灰色の空の下で
いつでも時計のやうに鳴つてゐる
浦!
ふしぎなさびしい心臟よ。
ula! ふたたび去りてまた逢ふ時もないのに。


 鴉

青や黄色のペンキに塗られて
まづしい出窓がならんでゐる。
むやみにごてごてと屋根を張り出し
道路いちめん 積み重なつたガタ馬車なり。
どこにも人間の屑がむらがり
そいつが空腹の草履《ざうり》をひきずりあるいて
やたらにゴミダメの葱を喰ふではないか。
なんたる絶望の光景だらう!
わたしは魚のやうにつめたくなつて
目からさうめん[#「さうめん」に傍点]の涙をたらし
情慾のみたされない いつでも陰氣な悶えをかんずる
ああこの噛みついてくる蠍《さそり》のやうに
どこをまたどこへと暗愁はのたくり行くか。
みれば兩替店の赤い窓から
病氣のふくれあがつた顏がのぞいて
大きなパイプのやうに叫んでゐた。
「きたない鴉め! あつちへ行け!」


 駱駝

さびしい光線のさしてる道を
わたしは駱駝のやうに歩いてゐよう。
すつぱい女どもの愛からのがれて
なにかの職業でもさがしてみよう。
どことも知らない
遠くの交易市場の方へ出かけて行つて
馬具や農具の古ぼけた商賣《あきなひ》でも眺めてゐよう。

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