しめよ
ふるさとの山|遠遠《とほどほ》に
くろずむごとく凍る日に
天景をさへぬきんでて
利根川の上《へ》に光らしめ
祈るがごとく光らしめ。
――郷土風物詩――
くさつた蛤
半身は砂のなかにうもれてゐて
それでゐてべろべろと舌を出してゐる。
この軟體動物のあたまの上には
砂利や潮みづがざらざらざらざら流れてゐる
ながれてゐる
ああ夢のやうにしづかにながれてゐる。
ながれてゆく砂と砂との隙間から
蛤はまた舌べろをちらちらと赤くもえいづる
この蛤は非常に憔悴《やつ》れてゐるのである。
みればぐにやぐにやした心臟がくさりかかつてゐるらしい
それゆゑ哀しげな晩がたになると
青ざめた海岸に坐つてゐて
ちら ちら ちら ちら とくさつた息をするのですよ。
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散文詩 四篇
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「月に吠える」前派の作品
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吠える犬
月夜の晩に、犬が墓地をうろついてゐる。
この遠い、地球の中心に向つて吠えるところの犬だ。
犬は透視すべからざる地下に於て、深くかくされたるところの金庫を感知す
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