こんだ奴
この奇體な
それでゐて
みたものもない片目の兇賊。


 有害なる動物

犬のごときものは吠えることにより
鵞鳥のごときものは畸形兒なることにより
狐のごときものは夜間に於て發光することにより
龜のごときものは凝晶することにより
狼のごときものは疾行することによりてさらに甚だしく
すべて此等のものは人身の健康に有害なり。


 さびしい人格

さびしい人格が私の友を呼ぶ
わが見知らぬ友よ早くきたれ
ここの古い椅子に腰をかけて二人でしづかに話してゐよう
なにも悲しむことなく君と私でしづかな幸福な日を暮さう
遠い公園のしづかな噴水の音をきいてゐよう
しづかに しづかに 二人でかうして抱きあつてゐよう。
母にも父にも兄弟にも遠くはなれて
母にも父にも知らない孤兒の心をむすびあはさう
ありとあらゆる人間の生活の中で
おまへと私だけの生活について話しあはう
まづしいたよりない二人だけの祕密の生活について
ああその言葉は秋の落葉のやうにさうさうとして膝の上にも散つてくるではないか。

わたしの胸はかよわい病氣した幼な兒の胸のやうだ
わたしの心は恐れにふるへるせつないせつない熱情のうるみに
前へ 次へ
全33ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
萩原 朔太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング