みず
されば都にわれの過ぎ來し方を知らず
かくしもおとろへしけふの姿にも
狼は飢ゑ牙をとぎて來れるなり。
ああわれはおそれかなしむ
まことに混閙の都にありて
すさまじき金屬の
疾行する狼の跫音《あのと》をおそる。
松葉に光る
燃えあがる
燃えあがる
あるみにうむ[#「あるみにうむ」に傍点]のもえあがる
雪ふるなべにもえあがる
松葉に光る
縊死の屍體のもえあがる
いみじき炎もえあがる。
輝やける手
おくつきの砂より
けちえんの手くびは光る
かがやく白きらうまちずむ[#「らうまちずむ」に傍点]の屍蝋の手
指くされども
らうらんと光り哀しむ。
ああ故郷にあればいのち青ざめ
手にも秋くさの香華おとろへ
青らみ肢體に螢を點じ
ひねもす墓石にいたみ感ず。
みよ おくつきに銀のてぶくろ
かがやき指はひらかれ
石英の腐りたる
われが烈しき感傷に
けちえんの、らうまちずむの手は光る。
酢えたる菊
その菊は酢え
その菊はいたみしたたる
あはれあれ霜月はじめ
わがぷらちなの手はしなへ
するどく指をとがらして
菊をつまんとねがふより
その菊をばつむことなかれとて
かがやく天の一方に
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