は旗のやうなものである。
まづしき展望
まづしき田舍に行きしが
かわける馬秣《まぐさ》を積みたり
雜草の道に生えて
道に蠅のむらがり
くるしき埃のにほひを感ず。
ひねもす疲れて畔《あぜ》に居しに
君はきやしやなる洋傘《かさ》の先もて
死にたる蛙を畔に指せり。
げにけふの思ひは惱みに暗く
そはおもたく沼地に渇きて苦痛なり
いづこに空虚のみつべきありや
風なき野道に遊戲をすてよ
われらの生活は失踪せり。
農夫
海牛のやうな農夫よ
田舍の家根には草が生え、夕餉《ゆふげ》の烟ほの白く空にただよふ。
耕作を忘れたか肥つた農夫よ
田舍に飢饉は迫り 冬の農家の荒壁は凍つてしまつた。
さうして洋燈《らんぷ》のうす暗い廚子のかげで
先祖の死靈がさむしげにふるへてゐる。
このあはれな野獸のやうに
ふしぎな宿命の恐怖に憑《つ》かれたものども
その胃袋は野菜でみたされ くもつた神經に暈《かさ》がかかる。
冬の寒ざらしの貧しい田舍で
愚鈍な 海牛のやうな農夫よ。
波止場の烟
野鼠は畠にかくれ
矢車草は散り散りになつてしまつた
歌も 酒も 戀も 月も もはやこの季節のものでない
わたしは
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